【説明できますか?】DXとは?企業がいま取り組むべき理由と成功事例 -
DXの推進は、新たな価値を創造し顧客へ提供するために不可欠な要素であり、企業の競争力を高める取り組みでもあります。しかし、2021年現在、実際に抜本的な取り組みを始めている企業は少数であることが現状です。
そこで本記事では、DXの基本的な部分から企業がDXに取り組むべき理由、これからのビジネスにおけるDXの課題や成功事例について紹介します。全体像を把握しながら理解を深め、DX実現への第一歩を踏み出しましょう。
DXとは
DXを推進する具体的な取り組みについて検討する前に、まずはDXの基本的な概念について理解しておきましょう。ここでは、「DXとは何か」について、用語の起源も踏まえながら解説します。
DXとは何か|基礎となる概念
DXの基礎となる概念は、2004年にウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授により提唱されました。具体的には、以下のような見解です。
- DXとは、人々の生活にデジタル技術(IT)がもたらす変化のこと
- デジタル技術(IT)の浸透が、人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる
当時のDXはあくまでIT研究の学術的な視点によるもので、必ずしもビジネスの変革を意図する概念ではなかったことが分かります。
DXとは何か|日本での解釈
現在の日本において、DXとビジネスの関係はどのようにとらえられているのでしょうか。ここでは、日本におけるDXの考え方として代表的な2つの例を取り上げます。
<1.経済産業省>
同省が2018年12月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」には、以下のように記されています。
DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービスビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織・プロセス・企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
- (出典:「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」Ver. 1.0 平成30年12月|経済産業省 https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf)
<2.情報処理推進機構(IPA)>
2019年5月、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」の中には、以下のように記されています。
DXとは「AIやIoTなどの先端的なデジタル技術の活用を通じて、デジタル化が進む高度な将来市場においても新たな付加価値を生み出せるよう従来のビジネスや組織を変革すること」
- (出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」令和元年5月17日|独立行政法人情報処理推進機構 https://www.ipa.go.jp/files/000073700.pdf )
共通しているのは、将来的な市場の変化に耐えながら、企業が社会や顧客のニーズに応え、競争力を発揮し続けることを意図している点といえるでしょう。また、そのためにはデジタル技術による業務効率化にとどまらず、ビジネスモデルやプロセス・企業文化までも変革していく気概が求められます。
DX=IT化ではない
DXの概念に関する解釈は複数ありますが、その多くに「デジタル技術を活用する」旨が述べられていることで「IT化と何が違うのか」と、疑問を感じた方もいるでしょう。ここでは、DXの概念をより正しく理解するために、IT化との違いについて解説します。
IT化とは
ほとんどの場合、「IT化」という用語は従来の業務にデジタル技術を導入することを指します。例えば、電話でのコミュニケーションをメールやチャットに置き換えたり、会議をリモート開催にしたりといったことです。また、これまで印刷物に頼っていた文書などの電子化も、IT化の一環として挙げられます。
IT化の主な目的は、業務効率化にあるといえるでしょう。業務ごとに適したツールを導入することにより、作業時間の短縮やリソースの削減が可能です。ただし、あくまで個別の業務の置き換えであり、プロセスそのものの改善につながるケースは多くありません。
IT化はDX実現のためのアプローチである
IT化とDXは異なる概念ですが、無関係ではありません。IT化は、DX実現のために行うアプローチの一つであるといえます。DXは個別の業務に限らない、組織までも含めたビジネスモデルやプロセスのドラスティックな変革です。
DXには、バリューチェーンの見直しによる生産性の向上や、顧客とのタッチポイントの創出など、ビジネスそのものの全体像を塗り替えるような変化を伴う特長があります。このような大きな変化を実現するには、デジタル技術やさまざまなデータの活用が不可欠です。
企業がいまDXに取り組むべき理由
DXを推進するために、基本的な概念を理解することは不可欠です。しかし、DXの概念がそのままDXに取り組むべき理由とはなりません。DXの実現がいまこそ必要とされる理由を押さえておきましょう。3つの事柄に焦点を当てて解説します。
消費者行動の変化への対応
スマートフォンの普及によって、情報は「取りにいくもの」から「流れてくるもの」へと変化しました。消費者にとっては情報過多な環境ともいえ、関心のない情報には目もくれず流されるでしょう。
さらに消費者行動は、2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機として大きく変化しています。幅広い年代でeコマースの利用が盛んになったことはその一例です。消費者のデジタルシフトは加速し、デジタルに求める新たな価値や期待値も高まっていると分析できます。
企業はこうした消費者行動の変化をとらえ、顧客とデジタルのつながりを構築する重要性を認識する必要があるでしょう。つまり「データから顧客をとらえる時代」が到来したのです。企業にとってDXは、データを通じて顧客の解像度を鮮明にし、より理解を深めた上で効率的にアプローチするための取り組みであるといえます。
競争力の強化
デジタル技術の進歩に伴い、従来では考えられなかったスタイルのビジネスが次々に生まれています。あらゆる分野に新規参入のプレーヤーが入り込み、既存のシェアを脅かしつつあることで、市場をリードしてきた企業にも、競争力のさらなる強化が求められるでしょう。
競争力の強化のために、激しく変化する市場にも柔軟に対応できる組織作りが必要です。これまで成果を上げてきたビジネスモデルに固執することなくDXに取り組み、同様にDXに取り組んでいる他企業にも負けないような優位性を発揮していかなければなりません。
老朽化するシステムからの脱却 ~守りのDX・攻めのDX
DX実現へのアプローチ方法として、「守りのDX」と「攻めのDX」があります。以下の表にそれぞれの概要をまとめました。
DXの方向性 |
概要 |
攻めのDX |
・「守りのDX」によって導入した先進テクノロジーから得たデータを活用し、顧客理解を深め、商品開発や営業支援、マーケティング施策の高度化を行う ・顧客満足度・顧客のLTV(生涯価値)・ロイヤリティを向上させる |
守りのDX |
・老朽化したシステムの刷新 ・RPAやAI(人工知能)といったテクノロジーを活用して業務の効率化を実現する動き ・既存事業のコスト効率を高めるための施策 |
例えば、企業内で使用されているシステムが老朽化によって限界を迎え、保守コストがかさむことなどを起因としてシステムを刷新する動きは「守りのDX」に該当します。
しかし、アクションが新しいテクノロジーの導入のみにとどまってしまうのは、企業にとって新たな価値や事業を生み出す機会を失うことになりかねません。導入した先進テクノロジーによって得られたデータを活用して初めて、イノベーションを引き起こし競争優位性の向上につながるのです。
つまり、業務効率化や自動化という「守りのDX」と、顧客理解に基づいた顧客体験(UI・UX)の提供やマーケティングの高度化といった「攻めのDX」は、両輪としてとらえる必要があります。
DXの課題
多くの企業にとって、DXは長期的な取り組みになります。組織やプロセスの変革を実現していく過程で、時に壁にあたり乗り越えなければならない局面も出てくるでしょう。ここからは、DXを推進する際の共通の課題として、3点を取り上げます。
DXの戦略と体制作り
企業がDXに取り組むには、ビジョンと戦略を明確に示し、社内で共有することが大切です。その際、DXで変革が求められるのはITシステムだけではなく、企業文化も含まれることを社内の共通認識として押さえておく必要があります。
最初のステップとして、経営層や事業部門・IT部門といった、あらゆる部門の関係者が対話を重ね、変革のアイデアを提示しながら大上段となるビジョンや戦略・コンセプトといった部分を詰めていく姿が理想です。
さらに、DXを推進する部門を新設するなど、全社的な活動のための体制作りも効果的でしょう。しかし、このような体制を整えられる企業は、まだまだ多くないのが現状です。経営層がDXの必要性について理解し、推進を決断できるかが最初の課題といえるかもしれません。
目的・目標設定の明確化
DXのアプローチの一つとして、社内に散らばるさまざまなデータを集約し、効果的に活用することが挙げられます。前提となるのが、基盤となるシステムの設計・構築と導入です。このとき、「自社システムの実現=DXの目的」となることがあり、ありがちな誤りといえます。
企業によって最終的な目的・目標は異なるものの、DXの大きな目的は、ニーズに応え新しい価値を創造し、顧客満足度を高めて企業の競争力を向上させることです。本来の目的を見失わないためには、自社のビジョンや今後の成長戦略に基づいて、DX推進のゴールを明確化しておくことがポイントとなるでしょう。
IT人材の確保と育成
DXの推進には、データとビジネスのスキルを備えた人材が欠かせません。具体的に求められるスキルと人材を以下の表にまとめました。
求められるスキル | 概要 | 人材の呼称例 |
ビジネスのスキル | ビジネス上の課題を発見・理解し、解決に導く能力 |
・プロデューサー ・ビジネスデザイナー ・アーキテクト ・データサイエンティスト/AIエンジニア ・UXデザイナー ・エンジニア/プログラマ |
データのスキル | さまざまなデータを統計や情報科学に基づいて扱うデータサイエンスの知識と、それらをITで実現するエンジニアリング能力 |
データとビジネスの両方に長けた人材を見極め、確保するのは容易ではありません。事実、IPA(情報処理推進機構)が2019年に東証一部上場企業1,000社に対して行った調査でも、DXの推進を担う人材について「大いに不足」「ある程度不足」と答えた企業が6割に上っています。
人材の確保と育成は、企業にとって大きな課題といえるでしょう。DXプロジェクト推進の当初は外部の力も活用しながら、自社の人材育成にも取り組んでいくとよいでしょう。
- (出典:「デジタル・トランスフォーメーション推進人材の機能と役割のあり方に関する調査」令和元年5月17日|IPA(独立行政法人情報処理推進機構 https://www.ipa.go.jp/files/000073700.pdf)
DXの成功事例
ここでは、DXで実際に成果を上げている企業の成功事例を紹介します。抱える課題やゴールは企業により異なりますが、DXを推進するにあたってベンチマークとなる具体的な取り組みを把握しておくことは、自社の取り組みを検討する際も有効です。
カシオ計算機株式会社
カシオ計算機株式会社(以下、カシオ)は、時計や電子楽器のほか、電卓や電子辞書、医療機器など幅広い製品を製造・販売するグローバルカンパニーです。同社のDXは、これまでの問題を解消しつつ、ユーザに優れた体験を提供し続けることを目指した取り組みとなっています。
カシオの製品は家電量販店やeコマースサイトなど、さまざまな場所で販売されてきました。しかし、デジタル社会で情報があふれる今日では、ユーザへのメッセージが届きにくくなり、購入意欲やロイヤリティが薄れがちです。さらに、カシオとユーザが直接つながる接点が少ない従来ではニーズを拾うことも困難でした。
そこへ新型コロナウイルスの影響も重なり、実店舗への集客を目的としたマーケティングから、顧客との直接的なつながり、ロイヤリティの維持・向上を目指す方針へと舵を切ることになったのです。
2021年4月に、カシオのバリューチェーン全部門のDXを取り仕切る「デジタル統轄部」が組織され、全社を挙げた取り組みが始まりました。
具体的な成果として、これまで販売や製品登録、サポートなどでバラバラに管理されていた顧客データを「CASIO ID」という識別情報で統合し、さらにWeb上やアプリでの行動・Web広告の反応などもTreasure Data CDPで一元管理できるようにしました。
これにより、ユーザ単位の製品へのロイヤリティや購入意欲の高まりを分析できるようになり、あらゆるタッチポイントで一人一人に最適な体験を提供することが可能になりました。
同社の取り組みは現在も進行中です。「ユーザー価値重視型企業へ真の転換」を掲げ、開発・生産・営業・カスタマーサービスといった部門も統合されたユーザデータを活用することでそれぞれユーザに歩み寄り、ニーズに応えるべく役割を果たす「ユーザー中心のバリューチェーン」の構築にも力が注がれています。
DXの推進は企業の急務
消費者ニーズや市場は絶えず変化しています。期待に応え、新たな価値を生み出し競争力を発揮するために、いまこそDXの重要性を再認識するタイミングです。急務ともいえるDXの推進には、全社的な活動を可能にする体制作りや目的の明確化といった課題もあります。他社の事例に学びつつ、自社に適した戦略を考えることが大切です。