DXレポートとは?これまでの変遷と最新版の概要をわかりやすく解説! -
DXレポートとは、経済産業省が公開するDX(デジタルトランスフォーメーション)に関するレポートです。このレポートでは、日本の経済におけるDXの現状や動向などを詳細に分析し政策提言として公開することで、デジタル変革の推進や地域経済の発展を図ることを目的としています。
公開された4つのレポートは以下の通りです。2018年に初版が公開されてから、これまでに4つのレポートが公開されています。最新版は2022年7月に公開された「DXレポート2.2」です。
表1:DXレポートの変遷
レポート名 (公開日) |
DXレポート (2018年9月7日) |
DXレポート2 (2020年12月28日) |
DXレポート2.1 (2021年8月31日) |
DXレポート2.2 (2022年7月13日) |
テーマ |
ITシステム「2025 年の崖」の克服とDXの本格的な展開 |
レガシー企業文化から脱却し、本質的なDX の推進へ |
DXレポート2追補版 目指すべきデジタル産業の姿・企業の姿を提示 |
デジタル産業への変革に向けた具体的な方向性やアクションを提示 |
研究会名 |
デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会 |
デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会 |
デジタル産業の創出に向けた研究会 |
デジタル産業への変革に向けた研究会 |
レポートURL |
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf |
https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004-2.pdf |
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005-2.pdf |
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/covid-19_dgc/pdf/002_05_00.pdf(概要) |
これまでのDXレポートの変遷
1.DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜(2018年9月7日公開)
シリーズの初版であるDXレポートは、2018年9月に経産省より公開されました。
DXレポートの要点は、「2025年の崖」に示されている通り日本企業はデジタル変革に乗り遅れることで大きな経済損失を被ってしまうと予測されており、現状抱えている課題に対して策を講じる必要性があるという点です。そして2030年の日本において実質GDPが130兆円以上の押上げを実現することを目標とし、そこまでのDXの方向性を示しています。
ここで、用語について解説します。
2025年の崖
過剰にブラックボックス化された既存システムの問題を解決し、業務自体の見直しを実行できるかが課題となっており、これを克服できない場合2025年以降に最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性を、2025年の崖といいます。
システムのブラックボックス化
システムの複雑化や風化によって内部構造や動作原理を遡って解明できなくなることを指します。新しいシステムを構築しようにも外部ベンダへの過度な依存により構造を理解できず手をつけられないなど、DXを推進する上での障壁となります。
DXレポートで示された課題は、既存システムの課題と情報サービスの産業構造における課題に大別されます。既存システムについてはブラックボックス化をはじめとするデジタル負債の解消にリソースを要し、未だ技術的刷新に手をつけられていない点が課題とされています。
また、現状の産業構造においてはユーザ企業においてIT人材が不足していることや、それに付随しユーザ企業がベンダ企業に依存してしまうため十分に協調が取れない点が問題であるとされています。これは企業が解決すべき課題に対し、システム開発の足かせとなっています。
これらの課題を解消し2025年の崖を乗り越えるため、経済産業省は「DXシステムガイドライン」として対策案を定めました。また、デジタル負債の解消を実現するため、ユーザ企業自身がシステムを把握できるように「見える化」指標と診断スキームの構築を対応策として定めました。そして各企業が確実にDXを推進していくことを目指していきます。
2.DXレポート2 中間とりまとめ(2020年12月28日公開)
DXレポート2は、新型コロナの世界的流行など企業を取り巻く環境の不確実性が高まる中で、「2025年の崖」を乗り越えるため、その中間報告として2020年に公開されました。
2018年に初版が公開されてから経産省は日本のDXを加速していくため、企業内面への働きかけと市場環境整備による企業外面からの働きかけの両面から政策を展開してきました。しかし、2020年10月時点で9割以上の日本企業がDXに全く取り組めていない、あるいは散発的な実施に留まっているという状況が明らかになります。
コロナ禍においては、リモートワークの推進など環境の変化に対し迅速に対応できた企業とそうでない企業の間で明確にデジタル格差がつきました。DXレポート2では、2018年版において主張されていた「デジタル負債の解消」というテーマに加え、政策の方向性として「レガシー企業文化からの脱却」を提起し、急速な技術変化に対する対応力の重要性が説かれました。
その上で、企業が変化に対応しDXを加速させるための施策として、DX推進体制の整備やデジタルプラットフォームの形成、産業変革の加速など、企業が取り組むべき対応策を短期から中長期というスパンで定めて公開しました。
3.DXレポート2.1(2021年8月31日公開)
技術変化への対応力を重要視したDXレポート2が公開された翌年、DXレポート2.1が公開されました。
前回のDXレポート2においては、「デジタル産業」と表現したデジタル変革後の新たな産業の姿や、その中での企業の姿がどういったものであるかという点までは議論が進められていませんでした。その反省を踏まえて今回のレポートでは、目指すデジタル社会の姿やデジタル産業の姿を示し、施策の検討状況を公開しました。加えて、現状の日本が抱えている「ユーザ企業とベンダ企業の変革に向けたジレンマ」という問題について提起されました。
既存産業の業界構造では、ユーザ企業は委託による「コストの削減」を、ベンダ企業は受託による「低リスク・長期安定ビジネスの享受」という関係がなされています。一見win-winの関係ですが、多くの場合両者はデジタル時代において必要な能力を獲得できず、デジタル競争の敗者となる低位関係となってしまいます。デジタル変革を加速するためにはこの両者の関係を脱却することが必要とされます。
そして、新たに日本が目指すべきデジタル社会の姿を以下のように定義しています。
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- 社会課題の解決や新たな価値・顧客体験の提供が迅速になされる
- グローバルで活躍する競争力の高い企業や世界の持続的発展に貢献する企業が生まれる
- 資本の大小や中央・地方の区別なく価値創出に参画できる
この目指すべき姿に向け、施策の検討をさらに推進していき、その状況をまとめた続編として最新版のDXレポート2.2へとつながります。
4.DXレポート2.2(最新版)(2022年7月13日公開)
DX レポート2.1の公開から約1年が経った2022年7月に、続編としてデジタル変革の施策の検討状況をまとめたDXレポート2.2が公開されました。次章にてさらに詳しく紹介していきます。
最新版:DXレポート2.2の概要と要点について
2018年に最初のレポートが発行されてから4年の年月が経ち、「DX」という言葉が浸透した日本国内においても、DXの真の価値を理解した上でDX推進に取り組んでいる企業は決して多くはありません。
DXレポート2.2でも、企業が自社のDX進捗を申告した結果をみると、自己診断に取り組む企業は着実に増えており、かつ、先行企業(成熟度レベル 3 以上)の割合も増加し続けているものの、デジタル投資の内訳は依然として既存ビジネスの効率化に8割が充てられており、DX 推進に対して投入される経営資源が企業成長に反映されていないと危惧しています。
図1:ユーザー企業におけるデジタル投資の割合
(DXレポート2.2 概要版より抜粋)
そこでDXレポート2.2では、これまでのレポートで示された「目指すべきデジタル産業・企業の姿」の実現に向けた具体的な方向性やアクションが提示されました。
具体的なアクションは以下の3つです。
1.デジタルを、省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ活用すべきである
DXに期待することは単なる業務改善ではなく、これまでにない新しいビジネスモデルの創造にあります。IT技術を駆使しビジネスに新たな付加価値を生み出し、変革を起こすことが企業に求められるアクションです。
2.DX推進にあたって、経営者はビジョンや戦略だけではなく、「行動指針」を示す
DXを進めるにあたって人材育成が重要であるという声がある一方、人材に対して具体的な学習機会が十分に担保されていないという現状があります。今後企業においては人材を評価・発掘するとともに、社内外のサービス・コンテンツ利用も含めて、活躍するチャンスを人材に付与していく取組みが求められます。
3.個社単独ではDXは困難であるため、経営者自らの「価値観」を外部へ発信し、同じ価値観を持つ同士を集めて、互いに変革を推進する新たな関係を構築する
DXをいち企業だけで成功させることは困難です。経営者は、DXに関する自らの価値観を外部に発信し、仲間を増やし、互いのダイナミックな変革につながる新しい関係を構築していくことが求められています。
そして、上述の3つのアクションを実現するための仕掛けとして「デジタル産業宣言」を策定しました。
図2:デジタル産業宣言
出典:DXレポート2.2 (概要) 経済産業省 https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/covid-19_dgc/pdf/002_05_00.pdf
経営者はこのデジタル産業宣言を自らの宣言へと練り上げるべきだとしています。これは、意識を社内そして社会へと浸透させ、デジタル変革の実行へと向かっていくための行動指針にしていくために重要です。宣言の各項目は、 DX 推進の規範的企業に対する調査を元に5項目に集約されています。
また、経産省はこの宣言の実効性を向上させるため、「デジタルガバナンス・コード2.0」を取りまとめました。デジタルガバナンス・コード2.0では、企業のDXに関する自主的取り組みを促すため、デジタル技術による社会変革を踏まえた経営ビジョンの策定・公表といった企業価値向上のために実践すべき事柄や経営者に求められる役割が示されています。企業は最新のデジタルガバナンス・コードに定められる認定基準を満たすかどうか、IPA(情報処理推進機構)にチェックシートを申請することでDXを推進している事業者と認められる「DX認定」を取得することができます。こうした施策により、真の意味でのDXを後押ししているのです。
- 経済産業省 「デジタルガバナンス・コード2.0」を策定しました https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913002/20220913002.html
まとめ
DXレポートの初版より謳われている、「2025年の壁」まで残すところあとわずか2年となりました。
しかし、現状の日本社会には「レガシー文化の脱却」の段階にあり、技術革新をビジネスに生かしきれていない企業が多く存在しています。
単にデジタル技術を使って業務効率化やコスト削減を行うことは「守りのDX」であり、「真のDX」とはデジタル技術によりこれまでになかった新たな付加価値を創出することです。
DXレポートは社会の現状を理解するだけではなく、デジタル社会で競争力を維持するための羅針盤となります。
経産省がこれまで発表してきた4つのレポートによって示された具体的なアクションや到達すべき目標を実現することで、持続的な企業価値向上へつなげていきましょう。