なぜ今デジタルマーケティングなのか? - 推進に必要なアプローチとは -
社会全体のデジタル化が進む中、データの利活用をベースにしたデジタルマーケティングが急速に浸透しています。中には「デジタルマーケティングへの取り組みがよく分からない」と感じている方もいるのではないでしょうか。一方で、ビジネス全般においてはDXへの取り組みが急がれています。
そこでこの記事では、デジタルマーケティングが必要とされる背景、推進に必要なアプローチなどを解説するとともに、DXとの関係性についても紹介します。デジタル社会における新たな価値創造に向けてデジタルマーケティングの高度化を実現しましょう。
デジタルマーケティングが必要とされる背景
デジタルマーケティングは今後のビジネスにおいて不可欠です。その必要性は以下三点から理解できます。
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- デジタル化の進行
- 購買行動の変化
- 事業継続性の懸念
ここでは、デジタルマーケティングについて説明した上で、必要とされる三つの背景を解説します。
デジタルマーケティングとは
テクノロジーの進化・普及による社会のデジタル化は、生活者の消費行動にも大きな変化をもたらしています。企業がこの変化に対応するためには、顧客中心に考えた上で、生活者の行動に合わせたマーケティング施策を打つことが求められます。ここで重要なのがデジタルマーケティングです。
デジタルマーケティングは、デジタル技術を活用して商品やサービスが売れる仕組みを作ることを指します。Webサイト、SNS、スマホアプリといったデジタルな顧客接点、ECサイトや実店舗から収集した顧客に関するデータなどを統合して活用し、デジタルマーケティング用のツールや外部の広告ネットワークなどを駆使しながらマーケティングを行う手法です。
消費者と企業双方のデジタル化が進行
総務省が2021年6月に発表した統計情報によると、2020年時点でスマートフォンの保有率は86.8%、インターネット利用者の割合は83.4%(13歳~59歳の各年齢層は9割超)に上ります。個人のインターネット利用端末は80歳以上を除く全ての年齢層でスマートフォンがPCを上回り、20歳~39歳の各年齢層では9割を超えるほどです。
統計情報からも分かるように、現在の日本ではスマートフォンによるインターネット利用が常識化しています。また、コロナ禍の影響もあって約5割の企業がテレワークを導入し、SNSやクラウドサービスを利用する企業も一般化している状況です。消費者と企業双方のデジタル化が進行する中、デジタルマーケティングへの取り組みは急務となっています。
- 出典:「令和2年通信利用動向調査」令和3年6月18日|総務省 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/210618_1.pdf
消費者の購買行動が変化している
経済産業省が2021年7月に発表した統計情報によると、国内電子商取引の市場規模は2019年まで右肩上がりで、B to Cでは約19.3兆円もの巨大市場に成長しています。2020年には旅行サービスの縮小などを受けB to Cが横ばい、B to Bは減少となりましたが、B to C、B to Bともに購買行動におけるeコマースの割合は増加しました。
Eコマースの依存率が高まることで、マス広告による企業のタイミングを優先したマーケティングは、従来よりも効果が薄れているといえます。消費者は自身のタイミングで商品・サービスを購入する傾向が強まっており、フリマアプリやネットオークションといったC to Cの市場規模が急拡大している状況です。
- 出典:「令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)」令和3年7月|経済産業省 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/210730_new_hokokusho.pdf
- 出典:「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」令和3年7月30日|経済産業省 https://www.meti.go.jp/press/2021/07/20210730010/20210730010.html
事業継続性の懸念
デジタルマーケティングは企業の生き残りをかけた喫緊の課題となっています。デジタル革新により時間・場所を選ばないサービス利用が可能となり、消費者の価値観は「モノからコトへ」「所有から共有へ」という変化も生まれている状況です。
そうした状況で消費者はDVDより動画配信サービス、百貨店よりECサイトやネットオークションを選ぶ傾向が強まっており、ビジネスモデルの変革なくしては事業継続が困難な領域も生まれています。
また、購買行動においてもデジタルやネット志向へと価値観が変化した消費者が快適・便利と感じるCXを提供するためには、顧客視点に立ってデータを活用するデジタルマーケティングが欠かせません。
デジタル先進国のアメリカでは、高度にデジタル化した新興企業の台頭により、先行企業が市場から淘汰された事例も珍しくありません。取り組みの遅れにより企業生命が危機に陥る懸念もあり、日本でもデジタルマーケティングの必要性・重要性が広まりつつある状況です。
デジタルマーケティングとDX|定義と関係性
ここではデジタルマーケティングとDXの定義や関係性をご紹介します。押さえておきたいポイントは以下の三点です。
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- DXとは何か
- DXとデジタル化は何が違うのか
- デジタルマーケティングとDXにはどのような関係性があるのか
デジタルマーケティングやDXの基礎知識をインプットすることで、必要性やアプローチの理解が深まります。
DXとは
DXは経済産業省やIPA(情報処理推進機構)によって以下のように定義されます。
DXの定義
経済産業省による定義
DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービスビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織・プロセス・企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
IPAによる定義
DXとは「AIやIoTなどの先端的なデジタル技術の活用を通じて、デジタル化が進む高度な将来市場においても新たな付加価値を生み出せるよう従来のビジネスや組織を変革すること」
参照: INCUDATA Magazine「DXとは」リンク
共通しているのは、将来的な市場の変化を意識しながら、企業が社会や顧客のニーズに応え、競争力を発揮し続けることを意図している点です。そのためにはデジタル技術による業務効率化にとどまらず、ビジネスモデルやプロセス・企業文化までも変革していくことが求められます。
- 出典:「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)」Ver. 1.0 平成30年12月|経済産業省 https://www.meti.go.jp/press/2018/12/20181212004/20181212004-1.pdf
DXとデジタル化との違い
DXと混同されがちなのがデジタル化です。コンピュータやインターネットによって、アナログの仕組みをデジタルに置き換えることをデジタル化と呼びます。企業によってDXの定義は若干異なりますが、一般的にITやICTによってビジネスの「手段」をデジタル化しただけのものはDXとは呼びません。
古典的なデジタル化のケースは、紙ベースの資料をPCで作成し、郵送ではなくメール送信することです。実店舗のある金融機関がネットバンキングを始めることも、既存ビジネスの単なるデジタル化にとどまるならDXとは呼びません。
デジタル化はDXの前段階、または必須条件のひとつですが、デジタル技術によって事業や商流のあり方そのものを組み替える変革がDXです。
デジタルマーケティングとDXの関係
デジタルマーケティングはデジタルシフトした生活者の消費行動に合わせたマーケティングです。ビジネスにおけるDXは、デジタル技術とデータ活用の進展によって企業文化や組織のあり方、商流が根本的に変わることを指します。
昨今のデジタル革新により情報社会(Sociey4.0)から創造社会(Society5.0)に向けた方向性が示されており、その実現のためにDXに取り組む必要性が高まっています。
DXによって自社製品・サービスを変革するためには、データ収集などデジタル技術を活用した顧客とのコミュニケーション精度を高めることが求められます。それはデジタルマーケティングの高度化にほかなりません。DXとデジタルマーケティングは相互に連携して推進していく必要があり、その結果がより良質な顧客体験につながります。
DXに基づきデジタルマーケティングを推進する六つのアプローチ
今後のビジネスには事業やバリューチェーンのDX化と、DXによるデジタルマーケティングの高度化が必要です。では、これらの取り組みを推進するにはどのようなアプローチで当たるべきなのでしょうか。ここでは、DXに基づいてデジタルマーケティングを推進するための六つのアプローチを解説します。
1.ビジョンと戦略の明確化
DXの本質的な課題は「デジタルテクノロジーによって新たな顧客価値を創造すること」です。まずはどのような価値を創造するか、深い顧客理解に基づいたビジョンを明確にした上で、デジタル変革の戦略を立てることが求められます。新たな価値を創造するためのデジタル化の戦略・ビジョンを明確化することが、DX化の実質的な第一歩です。
そのビジョン・戦略に則って、デジタルマーケティングの設計・実施計画を立案します。
2.組織や業務プロセスの変革
デジタルマーケティングを推進するには組織や業務プロセスの変革も必要です。CXへのフィードバックと検証の反復により、スムーズかつ継続的・包括的なブラッシュアップができる体制を構築します。組織・業務プロセスの変革に当たって押さえたいポイントは以下の通りです。
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- 検証から得られる知見をマーケティング施策に転換でき、PDCAを高速に回せる業務プロセスであること
- マーケティング部門だけでなく関連部門やバリューチェーンの全体にフィードバックできること
3.CXのシナリオ設計
続いて自社の優位性を生かしたCXのシナリオを設計します。その際には、良質で一貫性のあるCXが顧客満足度を高めるために重要な要素であることを忘れてはなりません。
CXのシナリオ設計はデジタルマーケティングに大きく影響します。顧客にとって快適・便利と感じられ、かつ一貫したCXを提供し続けるために、デジタルマーケティングによる顧客へのアプローチも最適化が求められます。
4.システムの最適化
DXに基づいてデジタルマーケティングを推進するには、システムの最適化も求められます。一貫したCXを前提として、顧客のレスポンスや行動データのマネジメントができるシステムは必須です。システムの最適化について押さえたいポイントには以下のようなものがあります。
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- DX戦略・マーケティング戦略を実現するための一貫性のあるIT基盤を構築すること
- 消費者の生活や行動の中からマーケティングに活用できるデータを取得できる仕組みがあること
- 提供した新たなCXに対する顧客満足度や顧客ロイヤリティを分析する仕組みがあること
5.データの的確な活用
さまざまな取得データを的確に活用することも不可欠です。顧客を取り巻く状況は刻々と変化し、ニーズも一定とは限りません。新たな価値を提供するには、取得データを多面的に分析して顧客の状況を察知し、変化するニーズを把握していくことが求められます。データの的確な活用に関して押さえたいポイントは以下の通りです。
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- データの取得や分析に際し、IT基盤の戦略的な活用ができること
- 取得データから顧客の状況察知やニーズ把握をできる仕組みがあること
- 取得データから得られた知見に基づいて意思決定する文化が形成できていること
6.人材の育成
デジタルマーケティングをリードする人材の育成は大きな課題のひとつです。ビジネスとマーケティング、データ分析について相当の知識を持った人材が求められます。
ただし、フェーズによって人材に求められる資質や能力は異なります。多様な人材を育成することが重要ですが、そのためには時間がかかります。そこでデジタルマーケティング知見があるパートナー企業と、協力して取り組むことも大切です。
DXの波に乗り新時代のマーケティングを確立しよう
社会のデジタル化の進展やwithコロナといった環境により、顧客ニーズ・購買行動は大きく変わり、C to C市場の急拡大といった状況も現出しています。Afterコロナの到来も明確に見据えられない中、環境変化に即応して顧客に対するアプローチを最適化できる企業が市場をリードしていくことでしょう。
こうした状況下で顧客満足度や顧客ロイヤリティの向上を図るには、顧客視点でビジネスを捉えなおす抜本的な改革が必要です。一方でそうした改革のもと創出された新たなサービスや製品を、デジタルマーケティングの高度化により新鮮かつ良質なCXとともに提供していくことが求められます。デジタルマーケティングを高度化し、良質なCXを提供することは、DX推進の一部にほかならないのです。