INCUDATA Magazine_000236_「経産省と東証が選ぶDX銘柄」から読み解く -  シリーズ③不動産DXの行方
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「経産省と東証が選ぶDX銘柄」から読み解く - シリーズ③不動産DXの行方 -

目次

DX銘柄」(*1)は、経済産業省と東京証券取引所(東証)がデジタルトランスフォーメーション(DX)に意欲的に取り組む企業を毎年認定し、公表する制度です。2015年にスタートした「攻めのIT経営銘柄」の後継として2020年から始まりました。本稿は、その最初の認定となる「DX銘柄2020*2)」の選定企業三十五社の取り組みを参考にしながら、業界ごとのDXのトレンドをご紹介いたします。

今回は不動産業界のDXにスポットをあてます。

不動産業界のトレンド

不動産業界は、少子高齢化・人口減少や都市への人口集中といった社会構造の変化や経済情勢の影響を強く受ける業界の一つです。

例えば、日本の経済情勢が比較的安定していたこともあり、地価については新型コロナウイルス感染症の感染が広がる直前の2020年1月まで全用途平均で五年連続して上昇し、上昇幅も四年連続で拡大。用途別では、住宅地が三年連続、商業地は五年連続、工業地は四年連続の上昇となり、いずれも上昇基調にありました(*3)。

その反面、住宅の着工件数については2016年ごろから分譲住宅を除きダウントレンドが続き、コロナ禍の影響によって分譲住宅を含めてすべての住宅の着工数が下落し ています(図1)。

図1:住宅着工件数の推移(単位:戸)

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資料:国土交通省「住宅着工統計」のデータをもとに編集部で作成

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00600120&tstat=000001016966

 

もっとも、経産省「第3次産業活動指数」(図2)を見ると、不動産取引の活況度は(中古物件の動きなどが比較的活発だったこともあり)コロナ禍によってそれほど大きな負のインパクトは受けていないようです。

 

図2:不動産取引活動指数とサービス産業(第3次産業)活動指数の推移(基準値2015年=100)

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資料:経産省「第3次産業活動指数(2021315日発表分)」のデータをもとに編集で作成

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sanzi/result-2.html#cont2

 

一方で、コロナ禍を境に急速に進むと見られているのが不動産業のデジタルシフトです。

不動産業は旧来、他業界の企業に比べてテクノロジー(IT)の恩恵を受けにくい業態とされ、IT化の遅れも指摘されてきました。背景要因として挙げられるのは、法的な縛りによって顧客との契約に紙の書面を使う必要があったり、契約相手に対する重要事項の説明を直接対面で行う必要があったりしたことです。2001年に電子署名法が、2005年にはe-文書法がそれぞれ施行され、企業のペーパーレス化や文書データ活用を後押してきましたが、不動産業はその恩恵をそれほど受けずにきたわけです。

そうした中で、2015年ごろから不動産取引のデジタル化・オンライン化を求める声が業界内で強まり、2017年には賃貸契約に関してビデオ会議システムなどのITを使った重要事項説明(IT重説)が可能になり、以降も重要事項説明書類のオンライン送付や不動産売買のIT重説の社会実験が行われてきました。その流れがコロナ禍の影響で加速し、2020年7月には書面規制・押印・対面規制の見直しを柱とする「規制改革実施計画」(*4)が閣議決定され、不動産の賃貸・売買・媒介に関する契約書面・重要事項説明書のデジタル化・オンライン送付を可能にする法改正の措置が講じられようとしています(*5)。

これにより、テクノロジーによって社内の業務効率や顧客との接点をさらに進化させようとする動きが不動産業界全体を通じて活発化する可能性が高まっています。

日本の行政府はかねてから不動産業界に対してAI・IoT・VR(仮想現実)などの有効活用によってサービス利用者の利便性を高めたり、情報化を推進して地域のニーズを的確に把握しながら不動産が最適に活用されるようにしたり、異業種との連携によって地域の暮らしをより便利にするサービスの包括的な提供を求めてきました(*6)。法整備によってデータやテクノロジーの活用が活発化することで、行政府の要請に応えるようなDXの取り組みが不動産業界の各所で見受けられるようになるかもしれません。

 

DX銘柄2020」企業に見る不動産DXのトレンド

法制度の問題からIT化が遅れ気味であったこともあり、2015年に始まった「攻めのIT経営銘柄」の初回と二回目(「攻めのIT経営銘柄2016」)では不動者業者が一社も選ばれておらず、2017年に株式会社レオパレス21と株式会社LIFULLが選ばれたのが最初となります(二社の取り組みについては後述)。以降は不動産事業者が二社程度選ばれるようになり、「DX銘柄2020」でも株式会社GA technologiesと三菱地所株式会社の二社が銘柄に指定されています。

GA technologiesは2013年創業の不動産ベンチャーで「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を。」を経営理念として掲げる企業です。アナログな不動産取引をテクノロジーで変革して業務の効率化とサービス利用者の利便性向上を同時に実現することを目指しています。

この目標のもと、同社では自社で開発・活用している不動産取引の業務支援システムをSaaSとして他企業にも提供しています。このSaaSを使うことで、不動産投資用ローンの申し込みや審査をデジタル化して金融機関・不動産会社・顧客の間で発生する書面を中心としたやり取りを大幅に削減できるといいます。

三菱地所は2019年の「攻めのIT経営銘柄」と「DX銘柄2020」の二年連続で選ばれています。2019年から進めていたDXの取り組みをかたちにしたことで「DX銘柄2020」での選定につながったようです。

同社は2020年1月に発表した「長期経営計画2030」の柱の一つとしてテクノロジーを活用したノンアセット事業(サービス、コンテンツ開発など)の強化を掲げ、その一環として大手町・丸の内・有楽町エリアのスマートシティ化を進めています。

このプロジェクトの中では、都市で収集したデータを活用してデジタルと都市機能を融合させた「データ利活用型エリアマネジメントモデル」の確立を目指しているといいます。また、オフィス・商業施設・空港などに合計約百台のサービスロボットを導入し、警備・清掃・運搬ロボットを活用した次世代の施設運営管理を目指すとしています。エレベーター内でテナント就業者向けにニュース・防災情報・独自コンテンツを配信する「エレシネマ」を不動産オーナー向けに無償で提供するサービスも始動させています。さらに、賃貸住宅において賃貸借契約の手続きをすべてシステム化・自動化し、物件の内覧予約受付から鍵の引き渡しまでのプロセスを完全非対面で完結する仕組みも導入しています。

三菱地所とGA technologiesは同じ不動産業者でも展開する事業内容にはかなりの違いがあります。ゆえに、両社のDX戦略もさまざまに異なりますが、生活者・顧客の体験を良質化することを前提に不動産ビジネスの変革や業務改革を推し進めている点は共通しています。

三菱地所の取り組みからは、DXの推進を通じて、不動産ディベロッパーとしての自社の事業の軸足を不動産というモノを作ることから、不動産を使う人の利便性・快適性を高めるサービスの提供へとシフトさせようとする意図もうかがえます。その意味で、大手不動産ディベロッパーにとってのDXは、製造業者にとってのDXと同じように「モノづくり」から「コトづくり」への転換を実現し、生活者・顧客にとっての自社の価値を高める有効な手立てであるといえるかもしれません。

一方、GA technologiesの取り組みからは、不動産仲介業者のデジタルシフトが全体としてはまだそれほど進展しておらず、改革の余地が多く残されていることが分かります。

となれば、前述したコロナ禍と法整備をきっかけに不動産取引のデジタル化・オンライン化が進展することでGA technologiesが提供するようなITサービスへの需要が拡大し、不動産仲介業者と顧客とのやり取りのほとんどがオンライン上で完結するのが当たり前の時代が比較的早く到来するかもしれません。実際、三菱地所が完全非対面で賃貸借契約の手続きを完了できるようにしたのも、コロナ禍の影響によるものであるようです。

不動産DXの過去と近未来

「DX銘柄」は「攻めのIT経営銘柄」の後継です。「攻めのIT経営」とはDXの取り組みに相当するもので「攻めのIT経営銘柄」に選ばれてきた企業の取り組みを追うことで不動産業界におけるDX(のトップランナー)の施策がどう変化してきたかをとらえることができます。

その観点から「攻めのIT経営銘柄」に選ばれてきた不動産会社とその取り組みをまとめたのが図3です。


図3:「攻めのIT経営銘柄」で選ばれてきた不動産会社とDX施策の概略

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この図からもわかるとおり、2018年と19年の二年連続でレオパレス21とLIFULLの2社が選ばれています。この二社は不動産仲介のビジネスを展開しているという点で共通性はありますが、事業内容は異なります。

レオパレス21は賃貸事業を柱とする不動産ディベロッパーであり、設立は1973年です。一方、LIFULLは1997年に設立された不動産情報サービスプロバイダーで、日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S(ライフル ホームズ)」の運営会社として知られています。

こうした事業特性の違いから両社のDX戦略にも違いが見られます。

レオパレス21は賃貸契約のデジタル化に取り組みながら、データとAIなどのテクノロジーによって自社物件の付加価値を高めたり、意思決定を自動化したりすることに力を注いでいました。それに対してLIFULLは、AIなどを使ったデータ分析・活用によって自社のWebサイトの利便性向上に取り組む一方で、賃貸契約のオンライン化を可能にする仕組みを不動者業者に広く提供し、業界全体のデジタルシフトをバックアップすることに注力しています。

LIFULL は順調に業績を伸ばし、2019年度(2019年9月期)の売上高(約393億円 )は2015年度(2015年3月期)の2倍強に拡大しています。

そして2019年の「攻めのIT経営銘柄」では、三菱地所と三井不動産という大手不動産ディベロッパーが選ばれており、このころから大手不動産ディベロッパー各社のDXの取り組みが始まったことが分かります。三菱地所と三井不動産の2019年の取り組みを見ると、両社はともにDXを推進する体制を整え、 施策を練り上げていたようです。その意味で、大手不動産ディベロッパーのDXは2020年が実質的な本格展開の年であったといえそうです。

2020年3月頃から始まったコロナ禍は、いつ終息するのかまったく先が見えず、それによってもたらされた人々の暮らしや働き方の変化が不動産業界にどのようなインパクトを与えるかの予測もつかない状況が続いています。その中でいえることは、どのようなかたちであるにせよ不動産DXの流れは確実に、そして早いペースで進むということです。というのも、例えば、オンラインで不動産取引が完結できる便利さをいったん生活者が体験すれば、アナログな不動産取引を行いたいとは考えなくなるからです。同様に自分が快適に暮らせて働ける場所や自分のニーズが充足できる場所へと人は集まり、その場所の価値が高まっていきます。その結果、不動産ディベロッパーの間ではDXによってターゲットの生活者のニーズを充足するサービスづくりが進むはずです。

不動産業界全体のDX推進が加速することで、不動産業を営む多くの企業が生活者や顧客、ないしはターゲット層の多様なデータを分析したり、オンライン上での顧客との接点を強化したり、自社のプレゼンスを高めるようなオンライン施策を打ったりすることに一層の力を注ぐようになるのは、もはや遠い未来の話ではありません。

DX銘柄とは

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経済産業省は2015年から東京証券取引所と共同で、中長期的な企業価値の向上や競争力の強化のために、経営革新、収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT利活用に取り組んでいる企業を「攻めのIT経営銘柄」として選定してきました。2020年からは、デジタルテクノロジーを前提として、ビジネスモデルなどを抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていくDXに取り組む企業を「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」として選定しています。

■DX銘柄におけるDXの定義

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」

■参照:DX銘柄/攻めのIT経営銘柄

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/keiei_meigara.html

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