生活者理解への投資がコロナ後の成長の基盤を築く - 歴史が証明する"不況下のマーケティング投資"の価値

新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)の世界的な流行によって、日本の経済や景気の先行きを見通すのが非常に困難になっています。そうした情勢下で、マーケティング投資をどのように行い、コロナ後の世界での企業成長力を確保すればよいのかについて考察いたします。

広がるコロナ不況への懸念

2020年5月25日、日本政府によるコロナの緊急事態宣言が解除され、国内経済が回復に向けて動き始めました。ただし、それから2カ月近くが経過した7月末の段階になっても、社会全体はコロナの影響から抜け出せず、景気の先行きは不透明なままです。
こうしたなか、日本企業の間では景気悪化の懸念が広がり、自社の収益についても減収減益を予想する向きが大勢を占めています。
実際、内閣府・財務省が6月11日に報道発表した「法人企業景気予測調査/令和2年4月~6月期調査(図1)』を見ると、2020年4月~6月期における企業の景況判断のBSI(Business Survey Index/*1)は、大手企業でマイナス47.6%ポイントになったといいます。これはつまり、2020年4月~6月期における景況について、前四半期に比べて「下降」と判断した大手企業の比率が、「上昇」と判断した大手企業の比率よりも47.6%ポイント多かったということです。

図1:企業の景況感(有効回答企業数=1万211社)

*1 表内数値は、前四半期と比較しての「上昇」-「下降」社数構成比。景気判断のBSIは、「景況が上昇と判断した企業の比率」から「景況が下降と判断した企業の比率」を引くことで求められる。例えば、前者の比率が10%で、後者が20%ならばBSIはマイナス10%ポイントとなる。

出典:内閣府・財務省『法人企業景気予測調査(令和2年4~6月期調査)/調査実施日2020年5月15日』

上図のとおり、中堅企業と中小企業の2020年4月~6月期のBSIはそれぞれ、マイナス54.1%ポイントとマイナス61.1%ポイントとなっています。また、大手企業の場合、2020年10月~12月期には景況が上昇に転じると見通す向きが、下降すると見通す向きよりも若干多くなっていますが、中堅・中小企業の場合は2020年10月~12月期も景況が下降すると見通すところのほうが多いようです。さらに、同じ調査によると、2020年度における企業の収益予想も、全体平均が「5.2%の減収/22.0%の減益」であるといいます。

歴史が証明する不況下でのマーケティング投資の有効性

以上のような状況下では、企業は守りに入り、攻めの投資であるマーケティング投資を削ろうとするのが一般的です。ところが、マーケティング関連の調査会社VAB社によれば、過去100年の歴史を振り返ると、不況下(ないしは、経済危機下)においてマーケティング投資を維持・増加させた企業ほど、のちの成長率が高いといいます。

彼らがまとめたデータの一部を要約して示すと以下の通りとなります(図2)。

図2:経済危機下における企業のマーケティング投資と売上成長との相関
「世界恐慌時」のマーケティング投資と企業収益の相関
1920年に発生した世界恐慌時、広告宣伝費を減少させた企業群は、のちの3年間、売り上げを(1920年対比で)落とし、その逆に広告宣伝費を増やした企業は売り上げを増進させ、1923年時点で1920年比約20%増を達成した。
「オイルショック時」のマーケティング投資と企業収益の相関
1974年~75年にかけてのオイルショック時、広告宣伝費を削らなかった企業群は売り上げを伸ばし続け、1977年時点で1972年の約2.5倍(オイルショック時の1.5倍)にまで売り上げを拡大させた。それに対して、オイルショック時に広告宣伝費を削ってしまった企業群はのちの成長を鈍化させ、1977年時点の売上規模は1972年の約1.4倍にとどまった。
「経済バブル崩壊時」のマーケティング投資と企業収益の相関
1990年から1991年にかけての経済バブル崩壊時も、広告宣伝費を削らなかった企業群は、のちの5年間、順調に売り上げを伸ばし、1995年の売上規模を1990年の約1.6倍に膨らませた。一方、広告宣伝費を削った企業群の売上成長のペースは鈍く、1995年の売上規模は1990年の約1.3倍にとどまった。

このほか、2008年から2009年にかけて起きた「リーマンショック時」においても、競合に比べて広告出稿量を増やすという"シェア オブ ボイス(声のシェア)"の拡大戦略を選択した企業や、中長期的なブランディングのためにTVへの広告出稿量を増やした企業は、その多くが、市場でのプレゼンスを高めて、成長を続けるという成果を手にしたといいます。

変化の中でのマーケティング投資

以上のように、過去100年の歴史において、不況時、あるいは経済危機時におけるマーケティング投資は、のちの企業成長に大きく貢献し、なかでも、対競合を意識したブランディングなどの投資は、経済危機発生後の売上成長と市場シェア拡大のスピードを増すという点で、相当のベネフィットを企業にもたらしてきました。いわば、これまでの100年間、マーケティング投資は、"攻撃は最大の防御なり"という言葉通りの成果を上げてきたわけです。

とすれば、コロナ禍が引き起こしている今日の危機的な経済情勢下でも、マーケティング投資を縮小するのではなく、維持、ないしは拡大させることが、経営戦略上、正しい判断ということになるのでしょうか。

その答えはNoです。コロナほどの大規模パンデミックが世界規模で発生したケースは、過去100年の歴史を振り返っても例がなく、それによって生活者の行動や意識がどのように変化し、どのようなマーケティング施策にどう反応するかを予測するのは極めて難しいため、従来と同じ広告宣伝を続けることが正解であるとはかぎりません。

このような状況下では、過去の経験則や経験則に基づく人の予測は通用せず、これまでと同じマーケティング施策を展開しても、生活者が予測とは全く異なる反応を示したり、予測に近い反応を示したりしたとしても、背景理由が従来とは全く異なるケースが多く起こりえます。そうした状態のまま、競合を意識したブランディングの投資を行っても、思い通りの成果が得られず、売上成長に貢献できないリスクばかりが膨らみます。

顧客理解の深化で投資の精度を上げる

上述したリスクを回避する上で必要となるのは、データを起点に、マーケティングの精度を高めていくための術(すべ)です。自社と生活者・顧客とのあらゆる接点からデータを収集・分析し、顧客行動の変化と、その変化の要因を即座に突き止め、生活者・顧客のインサイトを探さなくてはなりません。

例えば、製造業(メーカー)であれば、全てのブランドに関する生活者・顧客のデータを収集し、一つにまとめ上げ、全製品に対する生活者・顧客の動きを俯瞰的に捉えられるようにします。また、小売業であれば、実店舗や通販サイトなど、あらゆるチャネルの顧客データを統合化し、顧客の購買行動や、購買に至るまでの顧客の動きをつぶさに捉えられるようにします(図3)。

例)製造業(メーカー):各ブランドのデータ統合

図3:顧客の趣向性データの中からインサイトを探す仕組み

こうした仕組みにより、展開したマーケティング施策に対して、生活者や顧客がどう反応したかが、データというファクト(事実)に基づいて把握できるようになります。生活者・顧客がいま、何を求めているかが、正しく理解できようになれば、より効率的でより的確な施策へと改善していくことが可能になります。

実のところ、コロナ前から、顧客ニーズの変化は激しく、多様化も進んでいました。特定ブランドの製品・サービスを好んで購入・利用していた顧客が、いきなりそのブランドから離脱するといった変化が、当たり前のように、かつ頻繁に起きていたのです。それに加えて、コロナ後の人々の生活パターンや行動パターン、さらには価値観が大きく変容していけば、製品・サービスに対する生活者のニーズはさらに捉えづらくなり、企業の想像・想定を超える変化が頻発するようになるはずです。

アフターコロナの世界で、マーケティング投資を正しく行い、競争優位を確保するには、データを起点に顧客理解を深めるための取り組みがなにより重要になるはずです。

そして、すぐにでもその取り組みを進めなければ、過去100年間、不況時に広告宣伝費を削り、市場での競争力を低下させてしまった多くの企業と同じミスを犯してしまうことになるかもしれません。

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